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早期の嗅覚順応の解析
今までに知られている嗅覚順応では、30分以上匂いに曝した後に嗅覚の感度が低下していることが確認されます。これに対して、当研究室において5分という短い時間により成立する嗅覚順応が確認されました。この順応現象は独特の性質を持っているため、より長い時間で起こる順応現象と区別して、便宜上、早期嗅覚順応(early adaptation) と呼んでいます。早期嗅覚順応は「連合学習の解析」などとと同様に、アガロースゲル上での集団の行動を統計的に調べて、その表現型を確認します。
早期嗅覚順応は感覚神経内の機構だけで起こるものではなく、介在神経AIYの機能が必須であるのが特徴です。つまり、匂い情報が神経回路レベルで処理されているわけです。さらに、早期嗅覚順応にRas-MAPK経路(pathway) の働きが重要であることが当研究室において見出されました(Hirotsu and Iino, 2005 PDF file)。この信号伝達経路は線虫の陰門形成、嗅覚、タンパク質の分解、軸索伸長など様々な現象に関わる信号を伝達します(図参照)。この多種の機能を持った信号伝達経路が嗅覚行動の可塑性においても機能しているわけです。現在、早期嗅覚順応現象のメカニズムとRas-MAPK経路の役割について遺伝学的手法を用いてより詳細な解析を進めています。
まずRas-MAPK経路の上流、下流でどういった因子がこの現象に関与しているかということに興味が持たれます。関与する遺伝子を知るために、変異原処理によって作られたランダムな変異体の集団から、早期嗅覚順応に異常が見られる変異体を獲得し(具体的な方法は「順遺伝学を用いた連合学習に関わる分子の探索」と同様)、その異常の原因となっている遺伝子を同定しています。これらの変異体の原因遺伝子の中にRas-MAPK経路に関与する遺伝子が存在することが期待されます。
(山田康嗣)
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