連合学習のメカニズムの解析
我々は、行動可塑性(behavioral plasticity)、または学習行動(learning behavior) (過去の経験に基づき異なる行動パターンを示すようになること)に興味を持ち、そのメカニズムの解明を目指しています。線虫Caenorhabditis elegansは、単純な神経回路を持っており、遺伝学的解析に優れていることから、学習行動の神経回路レベル、分子レベルにおけるメカニズムの解析に有用です。
当研究室では、線虫における以下のような「連合学習(associative learning)」を初めて見出しました。餌の豊富な条件で培養した線虫はNaClに対し正の走性(誘引行動)を示しますが、NaCl存在下で一定時間飢餓を経験させるとNaClに対し負の走性(忌避行動)を示すようになります。しかし、NaCl非存在下での飢餓、あるいは餌のある状態でのNaClの呈示によってはこの行動変化は起こりません。従って、この現象はNaClと飢餓を関連付けて覚える連合学習であると考えられます。
線虫におけるNaClと飢餓との「連合学習」を制御する神経回路、分子メカニズムの解明を目指し研究を進めています。
(富岡征大、池田大祐、安達健)
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餌の豊富な条件で培養した線虫
NaCl濃度勾配の作られたプレートの真ん中部分(=start point)に線虫を置くと、NaCl濃度の濃いところに誘引される。 |
NaCl存在下で飢餓を経験させた線虫
NaCl濃度勾配の作られたプレートの真ん中部分(=start point)に線虫を置くと、NaClを忌避する。 |
〈現在進めている主な研究〉
連合学習におけるインスリン様シグナル伝達経路の機能
順遺伝学を用いた連合学習に関わる分子の探索
サプレッサースクリーニングによる連合学習に関わる分子の探索
〈参考文献〉
Saeki, S., Yamamoto, M., Iino, Y. (2001). Plasticity of chemotaxis revealed
by paired presentation of a chemoattractant and starvation in the nematode
Caenorhabditis elegans. J. Exp. Biol. 204, 1757-1764
飯野雄一 (2003). 線虫の行動可塑性. 線虫:究極のモデル生物/飯野雄一, 石井直明編.
p 111-117
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