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嗅覚順応の分子機構

哺乳類の中枢神経系では、モノアミンや神経ペプチドが感覚や運動、情動行動などの制御に関与していることが知られています。これらの神経修飾物質は多くの場合、Gタンパク質共役型受容体 (GPCR, G protein coupled receptor)で受容され、三量体型Gタンパク質 (heterotrimeric G ptotein)を介して多彩な効果器へと作用します。三量体型Gタンパク質のαサブユニットのうち、Giサブファミリーに属するGoは、哺乳類の中枢神経系で最も豊富に存在するGタンパク質です。過去に行われたGoノックアウトマウスを用いた実験から、Goは運動の制御や痛みの受容などで重要な働きをしていることが明らかになっています。しかし、Goの生理的機能は現在でも明らかにされていません。

ところで、線虫は薄いベンズアルデヒド (benzaldehyde)(果肉に含まれる匂い成分の一つ)の匂いを好み、ベンズアルデヒドに向かっていく行動(正の化学走性)を示します。しかし、15分~60分間ベンズアルデヒドを嗅がされた線虫では、ベンズアルデヒドに向かっていく行動は見られなくなります。この現象は嗅覚順応 (olfactory adaptation)と呼ばれており、線虫が外界の匂いを正しく認識するのに重要なメカニズムであると考えられています。ヒトでも長時間匂いに曝される事によりその匂いを感じることができなくなるように、嗅覚順応は動物全般で観察されるごく一般的な現象です。

我々は線虫の嗅覚順応に、Gタンパク質のGoをコードするgoa-1 ( Go alpha subunit)遺伝子が関与していることを新たに見出しました。先行研究により、GOA-1は神経筋接合部において運動神経からのアセチルコリンの放出を抑制することが知られていますが、化学走性行動に関与する機能は全く解析されていません。そこで我々は、線虫の嗅覚順応で拮抗的に機能するGタンパク質経路と、その下流で機能しているジアシルグリセロール (DAG, diacylglycerol)シグナルについて、分子生物学、遺伝学的手法を駆使して解析しています。
(松木正尋)

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