旧サイトの研究内容ページはこちら

<<< | | >>>

特定の神経細胞における遺伝子発現の解析

神経細胞は細胞体と神経突起からなり、他の神経や筋肉に信号を伝えるという共通の特徴を持っています。しかし詳しく見ると個々の細胞ごとに独特の機能や形態を持っており、多様な個性を備えていることがわかります。線虫C. elegansは全ての神経細胞が同定されており、また予測遺伝子という形で全遺伝子が同定されています。神経細胞の個性はそこで発現する遺伝子群によって規定されていると考えられますが、線虫はどの神経細胞でどの遺伝子が発現しているかを明確に記述できるという特徴を持ちます。したがって、それぞれの神経細胞の個性がどのようにして実現されるのかという問題を研究するための優れた実験材料であると言えます。

私たちは様々な神経細胞の個性をゲノムワイドに記述・解析するための手法としてpoly(A) pull-down法/mRNA tagging法を開発しました。poly(A) pull-down法とは、細胞種特異的にPABP (poly(A) binding protein)を発現させることでそこで発現している全てのmRNAを精製するという非常に画期的な方法です。PABPには全てのmRNAが持つpoly(A) tailに結合する性質があります。poly(A) pull-down法はタグ付きのPABPを細胞種特異的プロモーターによって発現させ、このタグをもとにPABPを精製することで、そこで発現しているmRNAを精製するという方法です。poly(A) pull-down法とマイクロアレイ(microarray)を用いることで、特定の細胞・組織で発現している遺伝子を網羅的に同定することが可能です(下図)。

図1 poly(A) pull-down法とマイクロアレイ

私たちはこれまでに線虫の感覚神経を対象として、この手法の有用性を確認しました(Kunitomo et al., (2005))。この研究により、感覚神経特異的に発現する遺伝子の濃縮が可能であることが示され、さらに感覚神経に発現する新たな遺伝子を複数同定することができました。

私たちのこれまでの研究で一個体当たり約50個の細胞に対しpoly(A) pull-down法を適用しうることがわかりました。私たちは現在この手法を、1細胞レベル、すなわち個々の神経細胞に応用することを試みています。同時に、バイオインフォマティクス(bioinformatics)を用いて、シスエレメントの同定を試みるなど種々の解析を行っています。
(高山順)

<<< | ↑↑ページトップ | >>>