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神経活動の可視化とその解析

線虫は、神経と行動を理解するための優れた研究材料と言われていますが、ではどのような手法で神経を観察するのでしょうか?

線虫の身体は透明で各器官が見えやすいのが特徴ですが、神経の興奮や細かな場所をそのまま見ることはできません。さらに線虫の神経細胞は小さく、電極を挿入して神経の電気的な活動を測定する事も容易ではありません。
しかしここ近年、蛍光タンパク質GFPやFRETを用いたカルシウムインジケーター(GCaMPやcameleonなど)の開発により、神経の活動を光学的に観察する事が可能となりました(図1)。

図1 GCaMPの仕組み: GCaMPは、改良型GFPにカルシウム結合タンパクであるカルモジュリン(CaM)とM13ペプチドがつながった構造をしています。CaMにカルシウムが結合することで構造変化が起き、蛍光タンパクとして機能するようになります。

 

図2 頭部のASER感覚神経にGCaMPを発現した個体



神経が興奮してカルシウムイオン濃度が上昇するのに伴い、インジケーターがカルシウムイオンと反応して蛍光強度が変化する事で、神経の興奮を可視化できたのです(図2)。

これにより初めて、線虫の塩濃度学習において神経がどのような可塑性を示すのかが明らかになり、また遺伝学と組み合わせた研究によって、インスリン様シグナル経路が神経の可塑性を制御している事が強く示唆されました1
また最近では神経を観察するだけではなく、チャネルロドプシンというタンパク質を神経で発現させる事により、光を照射する事で特定の神経を人為的に興奮させられるオプトジェネティクス的な手法も確立されました。近年ツールの開発や研究も多く行われ、たいへん熱のこもった分野となっています2

  1. Shigekazu Oda, Masahiro Tomioka and Yuichi Iino, Neuronal plasticity regulated by the insulin-like signaling pathway underlies salt chemotaxis learning in Caenorhabditis elegans. J Neurophysiol 27 April 2011.
  2. Satoh et al, Regulation of Experience-Dependent Bidirectional Chemotaxis by a Neural Circuit Switch in Caenorhabditis elegans. J Neurosci. 2014 Nov 19;34(47):15631-7.

  

関係する研究内容:神経細胞と神経回路のシミュレーション全神経回路の働きの解明

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