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脳の老化のしくみ

 日本人の平均寿命はここ半世紀ほどほとんど単調増加で伸びています。それにつれて、体の老化とは必ずしも一致しない脳の老化が社会的な関心事となっています。「健康寿命を延ばそう」とよく言われるように、脳の老化のしくみを理解することは、生物学の根本的な問いであるだけでなく、予防医学の上でも重要な課題です。

 寿命や老化の研究の難しいところは、これらが長い時間をかけて起こる現象であるため、一過的な観察が主となりがちで、因果関係の検証になかなか到らない点です。そこで、実験的な操作が可能でかつ寿命が短い生物の利用はとても有効です。特に線虫は寿命が2週間ぐらいですので寿命や老化に関する実験が非常にやりやすくなっています。      

 ひとつの有名な例として、インスリン受容体のホモログであるDAF-2の活性が低下した変異体は、普通の線虫の2倍以上も生きることがCynthia Kenyonらによって1993年にみつかり、これをきっかけに寿命に関わる遺伝子の研究が爆発的に進展したことが有名です。私たちは、DAF-2に選択的スプライシングによって生じる2つの主要なタイプ、DAF-2aとDAF-2cがあることをみつけています。味覚忌避学習にはDAF-2cが働きますが、寿命制御にはいずれのフォームも働くようです(図;より詳しい解析では寿命にはDAF-2aの方が強く作用することがわかっています;Ohno et al., Science 2014)。

 

 寿命の制御にはいろいろな機構が働きますが、ひとつはインスリン経路の下流で働くDAF-16転写因子です。DAF-16は哺乳類のFOXO転写因子のホモログで、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)やカタラーゼなど細胞老化に関わる遺伝子の発現を制御します。DAF-16転写因子は味覚忌避学習などの学習にも大事な働きをしますが、神経細胞と他の細胞とではDAF-16の働き方が違うことがわかっています。

 DAF-16の制御下にある遺伝子を中心に、それぞれの遺伝子の変異体で、寿命と、若いときの学習能や運動能、加齢後の学習能や運動能を比較することによって、どうしたら老化しても脳の働きを保つことができるのか、これに関わる大事な遺伝子をみつけていきます。

 

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