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異性との相互作用による学習

線虫の雌雄同体は、餌と塩を十分に与えた飼育環境下では塩に引き寄せられますが、塩がある状態で飢餓を経験したあとには塩を忌避するように行動が変化します。この行動は、塩を手がかりとして餌を探索するために役立っていると考えられます。同様の餌に依存した行動変化は匂いや温度についても知られています。一方、線虫の雄は、雌雄同体の存在の有無によって、塩に対する走性(塩に寄るか、塩を忌避するか)を変化させていることをみつけました。餌が豊富な条件で飼育した雄は、雌雄同体の有無にかかわらず塩に寄っていきます。また、雄を、雌雄同体が存在せず、餌のない環境に数時間さらした後では、雄は塩を忌避するようになりました。これらの雄の行動は、これまで雌雄同体で観察されてきた行動と同じです。ところが、雄の線虫を雌雄同体と共に餌のない環境にさらした後では、雄は塩に寄る行動を示しました。雌雄同体においては、雄がいてもいなくても塩への走性が変化しませんでした。つまり、異性の存在の有無が学習に影響を与える現象(異性学習)は、雄特有のものです。雄の異性学習は、餌を探すよりもむしろ雌雄同体を探索することを優先することで、自分の遺伝子を効率的に後代に残すために役立っていると考えられます。

異性学習が成立するメカニズムを詳細に調べたところ、異性学習の成立には雌雄同体からのシグナルが重要であることが明らかになりました。線虫は個体間コミュニケーションの手段としてフェロモンを用いることが知られていますが、フェロモンを合成できない雌雄同体(フェロモン合成を担うdaf-22遺伝子の変異体)と共に雄を飢餓条件にさらしても、雄は塩を忌避する行動をとる、つまり異性学習が成立しないことがわかりました。また、交尾器が異常な雄(交尾器の発生に必要なmab-5遺伝子の変異体)の変異体を雌雄同体と共に飢餓条件にさらした場合も、異性学習は成立しませんでした。これらのことから、異性学習の成立には雌雄同体から分泌されるフェロモンと、雄の交尾器で受容される何らかの別のシグナルが必要であることが明らかになりました。

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